手術室でも医局でもない、
外科系医師に開かれたオンラインでの研鑽場所

和歌山県立医科大学 整形外科学講座 村田鎮優先生

素晴らしい論文が認められた、学会主催アワードの受賞者たち。
研究アイデアはどこから得られたのか。論文化のために、どのような工夫をしたのか。
それぞれの先生に、受賞にいたるまでのプロセスをインタビュー。
語られる内容に受賞のヒントが隠されているかも。
今回はBest Paper Awardに加えてHigh Citation AwardのW受賞された和歌山県立医科大学 整形外科学講座 村田鎮優先生にお話を聞きます!

本編に登場する論文

Vascular Evaluation around the Cervical Nerve Roots during Ultrasound-Guided Cervical Nerve Root Block
Shizumasa Murata, Hiroshi Iwasaki, Yuta Natsumi, Hiroshi Minagawa, Hiroshi Yamada
Spine Surg Relat Res. 2019 Aug 16;4(1):18-22. doi: 10.22603/ssrr.2019-0006. eCollection 2020.

Long-Term Outcomes after Selective Microendoscopic Laminotomy for Multilevel Lumbar Spinal Stenosis with and without Remaining Radiographic Stenosis: A 10-Year Follow-Up Study
Shizumasa Murata, Keiji Nagata, Hiroshi Iwasaki, Hiroshi Hashizume, Yasutsugu Yukawa, Akihito Minamide, Yukihiro Nakagawa, Shunji Tsutsui, Masanari Takami, Ryo Taiji, Takuhei Kozaki, Andrew J Schoenfeld, Andrew K Simpson, Munehito Yoshida, Hiroshi Yamada
Spine Surg Relat Res. 2022 Feb 10;6(5):488-496. doi: 10.22603/ssrr.2021-0200. eCollection 2022 Sep 27.

── アワード受賞おめでとうございます。村田先生はアワードW受賞されているということで、まずはHigh Citation Awardを獲得したエコーの論文からお願いします。
こちらは、どういうモチベーションで始まった研究でしょうか?

今回の研究は、私が入局して4年目のときにテーマをいただいたものです。岩﨑 博准教授から脊椎領域でのエコーを一緒にこれからやっていこうよ、とお誘いをいただきました。
外来でエコーを使ってできる頚椎神経根ブロックをできるようになりたいと思っている中で、大学なので研究もしっかりやっていかなきゃいけないということで研究テーマにしました。
エコー下での神経根ブロックは安全だとよく言われているのですけれども、どれぐらい安全なのかなっていうところを評価したいな、と漠然と思ってたところ、周りにある血管損傷のリスクを評価していくのはどうかなとご指導をいただきながら計画していきました。

── なるほど。すぐに自分自身でエコーを使った外来での頚椎神経根ブロックをやっていたのですか?

いえ、その当時は少しずつエコーを触っている段階で、肩のSAB注射してみたり、仙骨硬膜外ブロックのときにわざわざエコーを当て、骨との位置関係を見ながら注射したり、とかしていました。いよいよ頚椎神経根ブロックもやりたいな、ということでエコーを当ててみると、結構周りに血管があるな、と。
医者4年目ぐらいの頃です。

── 血管に当たってしまうことは多いのですか?

いや、ビビりながら慎重にやっていることもあって、血管に刺してしまった経験は幸いにもないですね。
実際にエコーで見えている状況下で少しずつ針を進めてやりますので、分からない中でエイヤってやるのとは違うと思います。

── 神経根ブロックで薬が血管内に入ると、どんなリスクがありますか?

嘔気などの軽い症状のほか、投与量によっては意識障害、呼吸停止、心停止まで至るリスクがあるとは言われていますが、おそらく神経根ブロックの濃度と量でいうと、そこまで怖いことは起こらないと思います。
ただ、手術も考える中で外来でそういう合併症が生じると、信用をなくしてしまう可能性はあります。

── そうですよね。課題としては、すごく切実ですよね。

紹介元の近医ではレントゲン下の神経根ブロックを受けたことのある患者さんもいるんです。手技的に、横突起を触ってグッと押されながらやりますよね。あれが怖かった、痛かったとか、苦しかった等の経験をされた方が、手術適応で大学に紹介になってくるんですけど、我々の手で再度神経根ブロックをして確認するって時に、嫌な思いをさせずにできるっていうのがエコー下の神経根ブロックの強みだと思います。

── 再度、神経根ブロックをする意味合いとしては、責任高位の確認ということでしょうか?

全くおっしゃる通りです。和歌山医大は、低侵襲・内視鏡にこだわっている病院ですので、できるだけ手術範囲を狭め、責任高位を特定することに歴史的にこだわってやっています。
画像的に怪しいからココもやっておこう、のような判断は絶対しません。
神経根ブロックの結果で責任高位を特定してやっていくというこだわりがあるので、外来診療における神経根ブロックは私たちは必須と思ってやっています。

── さすがですね。自分は透視下で頚椎神経根ブロックをやっていたことがありますが、結構隣の神経根にいっちゃうことはないですか?この論文の話とは、ずれちゃうのですけれど。

はい。そうですね。より末梢に行くと安全ですので、C5とC6が合わさってきたり、C6とC7が合わさってきます。手術における責任高位を決める方でなくて、外来で継続して診療していくような方には安全な末梢でブロックするのが良いと思います。逆に実際に責任高位を決めるとなると、本当に横突起の近くのかなり中枢で、少量のキシロカインやステロイドを投与して、直後の患者さんの反応をみて、というところにこだわってやっています。

── 論文としては、C7では血管が近くて危ないことがあるという結果だったのですが、臨床的な肌感覚はあったのでしょうか。

実は手技をやることに必死で、、、あまりその辺がわかっていませんでした。
今回の研究で計測したり、落ち着いて振り返って見ている中で、C7をやっているときだけ血管が出てくることが多いと分かりました。手技のスピードも上がったなと感じます。

── 今回の対象患者さん30名の方は、全部のレベルをあえて見せてもらったのですか?
たとえば、普通だったらC5だけやるんだけれど、他のレベルも見せてもらうような。

エコー下の神経根ブロックをやる時は、C6やりますって言っても、C7に前結節がないことを確認してから上がっていくので、そのルーチンの中で画像に収めさせていただいて、データを集めていきました。
今回の症例は岩崎准教授と私の症例を合算しているような集まりになるんですけれど、どちらも同じ手順で、あとでエコー内の画像を見返して判るようにA4の紙とかに覚え書きするようにするなど工夫していました。

── なるほどですね。患者さんにとっても負担が増えないわけですね。横断面の作り方は過去の研究から定義などあったのですか?

岩崎准教授も私も教科書通り横突起の形で、こんな三角形やったらC7で、こういうカニ爪やったらC6というようにやっていて、実際に神経根ブロックを注射するビューを出すというルールでやるように統一してやっていました。

── 実際の臨床に即したところで研究していて素晴らしいですね。投稿先は迷いましたか?

SSRRが初めて投稿した雑誌でした。
というか私自身、これが処女作の論文です。

── 処女作でHigh Citation Awardに・・・。先生、凄い。

いえ、指導医に恵まれただけです。
当時はわかっていないながらも一生懸命やっていただけですが、今思えば、ちょうど今から世の中的にエコーが広がっていく流れの中で、少しだけ皆より早く研究を絡められたかなと。
本当に宝くじに当たったような感じです。
アワードのお知らせも最初はハゲタカオープンアクセスジャーナルからの勧誘かなと思ったくらいです。

── アワードを取って、1番喜んでくれた先生といえば?

これはやはり、岩崎准教授と山田 宏教授ですね。

── このアワードを取ったことでの先生の変化ってありますか?

学会に行ったときに、近い世代の先生に声をかけていただけるようになりました。非常に嬉しいのと身が引き締まる思いと、これからも頑張ってやっていこうっていうモチベーションアップにつながっているなと思います。

── ありがとうございました。そうしたら、2本目のBest Paper Awardの論文に写らせてください。選択的に手術した患者さんの10年経過観察で、画像的な狭窄を残した症例と残していない症例を比較した面白い研究ですね!

はい。これも先ほどの和歌山医大の方針の話に繋がりますが、画像的異常を責任病巣としないと徹底しています。
画像的狭窄があっても、それが症状と関連しているのかどうかを、ずっと徹底してカンファレンスで揉んで実際に手術しています。
私は入局してから、ずっとそういう環境で育ったネイティブ世代なのですけれど、「責任病巣ではないから内視鏡除圧しなくて良い」っていったところがどうなっているのかなと気になっていました。

── たしかに。

2010年の手術症例を対象に、ちょうど10年後の2020年にフォローアップしましょうという研究です。和歌山医大の方針として術後5年間はしっかりフォローし続けて、それ以降も1年に1回とか外来に来ていただいていました。基本的には粘り強くフォローを続ける。ローカルな街なので、フォローを徹底して続けることを以前からやっていました。

── 大学病院で10年間も外来フォローを続けることとなると、できない病院もありそうですね。

近くに素敵な病院があったり、医師の異動とともについていくとかで、患者さんが大学で経過観察されないことは良くありますよね。
この研究は和歌山ならではの背景もあって、患者さんもずっと来てくれるっていうところはあります。

── この研究結果は予想通りだったのですか?

いえ、私の印象としたら「画像がこれだけ悪かったらあかんのちゃうん」って思っていたんです。ところが、結果としては2群の再手術率が約2割で一緒でした。これは手術前の患者さんに説明するときにも、大いに役立っている研究ですね。
内視鏡を使って創部を小さくして低侵襲ってこだわっているのに、技術的に可能だからと3つも4つも手術していたら全然低侵襲ちゃうなっていう思いもありました。画像的に怪しくても1箇所に絞れるんやったら1個に絞って、85%ぐらいの患者さんで10年間保たれているんだったら良いじゃないかと。その数字を患者さんに伝えながら、自分の手術適用も決めています。

── このアワードを喜んでくださっていたのは?

ご指導をいただいた長田圭司先生がとても喜んでくれました。ありがたいです。
さっきの研究もそうなんですけれど、指導医に恵まれて、チャンスをいっぱい頂きました。
論文を書くことで、脊椎脊髄病学会のシンポジウムにも出させていただきました。
そこで大先輩の先生たちと議論を交わす機会もいただいたりして、今後の勉強になりましたし、そういうチャンスや舞台に立つことができたっていうことが非常にありがたいなと思います。

── 素晴らしいですね。村田先生、ありがとうございました。