手術室でも医局でもない、
外科系医師に開かれたオンラインでの研鑽場所

筑波大学整形外科 奥脇駿先生

素晴らしい論文が認められた、学会主催アワードの受賞者たち。
研究アイデアはどこから得られたのか。論文化のために、どのような工夫をしたのか。
それぞれの先生に、受賞にいたるまでのプロセスをインタビュー。
語られる内容に受賞のヒントが隠されているかも。
今回はBest Paper Awardを受賞された筑波大学整形外科 奥脇駿先生にお話を聞きます!

本編に登場する論文

Relationship between Vertebral Instability and the Cross-Sectional Area of Lumbar Muscles in Postmenopausal Acute Osteoporotic Vertebral Fractures
Shun Okuwaki, Toru Funayama, Akira Ikumi, Satoshi Matsuura, Haruo Kawamura, Masashi Yamazaki
Spine Surg Relat Res. 2021 Jun 11;6(1):51-57. doi: 10.22603/ssrr.2021-0029. eCollection 2022.

── アワード受賞おめでとうございます。骨脆弱性圧迫骨折についての論文だと思います。どのようにして本研究は始まったのでしょうか?

元々は筑波大学で、骨粗鬆症性椎体骨折に対して安静臥床をするかしないか、治療プロトコルの研究を進めていた流れがありました。2施設での前向き研究で、骨粗鬆症性椎体骨折に対して安静にする群と安静にしない群で、椎体圧壊やADLに違いがあるかを調査しており、そのうちの1つの病院が、私が勤務していた高萩協同病院でした。私も脊椎を専門としようと志すにあたり、その研究の中で派生した研究を何かできないかなと考えていたところでした。
多くの患者さんがプロトコルに沿った治療をされていたので、治療群の患者背景が統一できるっていうのが1つ強みで、何かスタディーデザインが組めるなと思ったのが始まりでした。

── 骨脆弱性圧迫骨折は日本中どこでも困っていると思うんですけれど、特に切実に困っている現場感はあったんですか?

そうですね。高萩地域は茨城県と福島県との境に位置していて、医師不足地域と言われるような、僻地に分類されるエリアでした。そこの地域はかなりの高齢化率であるうえに病院が少なくて、人口あたりの医師数が全国的に見てもかなり低い方というところで、現場の課題の強い地域でした。

── なるほど。そういう地域の臨床プラクティスでいうと、あまり入院させられないって状況になるのか、それとも病院がそこしかないから痛みの強い患者さんは入院して介入する状況となるのか、、、どちらになるのでしょうか?

どちらかというと今は後者の方で、痛くて動けない患者さんたちの、ニーズに答えなきゃいけない状況です。入院してしっかりと痛みの治療をして、骨粗鬆症の治療まで介入していく方が、地域住民に密着している病院としてのあるべき姿でした。

── この論文のユニークな点の1つであるVertebral Instabilityについて、教えてもらえますでしょうか?

私の指導医でもあり、論文のセカンドオーサーにもなっていただいている船山徹先生が、以前から椎体不安定性について、日本語でも英文でも論文にしていました。このプロトコールでも、入院するときに非荷重位として仰臥位と荷重位として座っている姿勢、もしくは立った姿勢でのレントゲン撮像をしています。この差が、骨粗鬆症性椎体骨折の重症度に反映してくるのではないかという研究です。これまでの先行研究から、20%以上の不安定性がある椎体骨折は、痛みなどのアウトカムが悪いと示していました。

── その次のステップとして、この研究ではVertebral Instabilityを起こすのはどういう人かを調査したのですね。

そうです。我々の中では、筋肉の鎧説って呼んでいましたけれど、筋肉は防御する鎧のような役割をしているんじゃないかという仮説がありました。言い方が抽象的になりますけれど「活きが悪い」方はやはり圧迫骨折の予後が悪そうで、それをどうにか数値化できないかという研究です。今回評価した筋肉としては、体幹筋のうちの大腰筋と脊柱起立筋と多裂筋を評価をしてみました。あとは筋肉の脂肪変性の度合いですね。これを画像計測ソフトをつかって定量評価するかも今回悩ましかったところの1つでありますが、ばらつきも多かったので、今回はグレード分類別にしていますね。

── 3つに分けてみたってことですね。

そうですね。これも先行研究を参考にっていうことですね。

── なるほどです。最終的な結果は、どうだったのでしょうか?

まずVertebral Instabilityと骨密度との関係を我々としてはかなり注目していたんですが、有意な関係は出ずに、筋肉量が有意な因子として残ってくる結果でした。筋肉の中でも背筋、バックマッスルが効いているという結果です。次の段階にはなってしまいますけれど、じゃあバックマッスルを高齢者にどうやって鍛えてもらうかは難しい話で、この結果をどう発展させるかを検討中です。

── ありがとうございます。論文の投稿までの道のりは?

論文化するにあたって、学会でも何回か発表の機会を頂いて、かなり会場からの質問も多かったんです。本当に偉い先生方からも、どんどん発展させてくださいっていうようなコメントをいただいてたので、良い研究内容なんだなっていう手応えはずっとありましたね。
投稿先は悩みましたが、脊椎外科医になると決めたばかりの頃の論文だったので、所属学会発のSSRRが投稿先と良いのではと船山先生と相談して決めたという流れでした。

── このアワードを取ったと聞いた時に、誰が1番喜んでくれましたか?

もちろん自分もですが、セカンドオーサーになっていただいた船山先生、他にもご指導いただいた先生や教室の山崎教授、あとは家族も喜んでくれました。

── 今後のSSRRに期待することはありますか?

今は「ひとこと要約」とか、今回のインタビュー記事みたいに、関心を持ってもらおうという動きを凄く感じます。若手がまず意識しやすい論文になっているなっていう印象はありますし、投稿しやすさもあると思うので、良い英文誌だと思っています。
また、日本からの論文は、自分の臨床のプラクティスに合っていますし、肌感覚として近しい研究の仕方をしていたりするので参考にしやすいです。
学会発表とかポスターでも、SSRRに出ている内容だとパッと調べることができますし。

── なるほど。「SSRRに掲載されてます」みたいなロゴやマークがあると良いですね。めちゃくちゃ良いアイデアですね!!!
最後に、このアワードは先生のキャリアにとって、どういう位置付けになりそうですか。

アワードが取れたっていうのは、やはり1つの自分のステータスになります。いろいろな申請や発表時に、ベストアワードを取っている経歴というのは、かなり自分のアピールポイントになってくるかな、と。
高齢者の椎体骨折に関して賞を頂けたので、ますますこの分野に関しての研究を続けていくモチベーションになりました。

── 素晴らしい。奥脇先生、ありがとうございました。